府連 自然保護委員会への報告     201097()

鹿による、ポンポン山竈ケ谷、野草の絶滅の危惧

20109月2日()記 高槻勤労者山岳会 三鍋敏郎

 

ポンポン山 竈ケ谷の野生動物による被害状況

1990年、マスコミ報道で、ポンポン山のゴルフ場建設計画が明らかになりました。その当時、ポンポン山の北にある竈ケ谷を歩くと、ニリンソウ、イチリンソウ、ミヤマカタバミ、オタカラコウなどの花が豊富にありました。モミジガサやミカエリソウなどは道を塞ぐように繁殖して、朝露にズボンを濡らした事もありました。しかし、その後、谷を歩いても障害となる植物はが激減しております。

2010年になって、当 高槻労山の佐々木さんより竈ケ谷の近況報告がありました。「724日の観察会 727日の里山ハイク時には、オオキツネノカミソリは例年よりやや少ないが同じ程度に咲いていました。ただ、葉を食べられた入り口付近では花をまったく見ませんでした。(一昨年から良く咲くようになっていた場所)この日は、大雨で抉られた球根をたくさん見ました。竈ケ谷のオオキツネノカミソリの花期は毎年7月下旬から8月初旬まで。今年は810日ごろまで咲いていました。しかし、トリカブトやオオキツネノカミソリをシカが食べているようです。」

上記の報告を受けて、急遽830日に観察目的で竈ケ谷ルートを遡行しましたが、オオキツネノカミソリの花茎も球根もまったく見ることが出来ませんでした。

大原野を流れる出灰川には近年頻発するゲリラ豪雨の影響か、平常水面より1.5m以上の高い場所に増水の痕跡が見られました。その支流である竈ケ谷も同じように、谷の両サイドの土が抉られ、登山道の取りつき部分が流失しています。盛り土部分の表面にも濁流の痕跡が見られました。濁流で野草などの球根や根茎などが流されたり、水流で表面に出た球根などを、野生動物が食べてしまった事も考えられます。

 

@ 絶滅したと見られる植物 

ジャコウソウ、ヤマゼリ、シシウド、ウバユリ(猪が球根を食べた)

A 群落の消滅

ヤマブキソウ、ノブキ、ムラサキケマン、カテンソウ、ナベナ

B 群落の消滅寸前

ニリンソウ、イチリンソウ、ミカエリソウ、モミジガサ、フタリシズカ、ウマノアシガタ

キランソウ、スミレ類、ユリワサビ、トウゴクサバノオ、ツルカノコソウ、キンキエンゴサク

C 近年繁殖しているもの

タケニグサ、ダンドーボロギク、レモンエゴマ (谷沿いの荒地に大量繁殖し急速に勢力を広げている)

D 樹木の被害

コクサギ、ヤブツバキ、イヌツゲ、リョウブ (樹皮を食べられ枯れ死)

 

トリカブトの毒は良く知られていますが、オオキツネノカミソリの球根にも毒があるという事でした。インターネットで調べると。トリカブトの毒成分は、アルカロイド、アコニチン、メサコニチン、ヒバコニチンで摂取すると呼吸困難や心臓麻痺を起こし死に至る。

オオキツネノカミソリにも、やはり球根には毒が有りました。有毒成分は リコリン(Lycorine)、ガランタミン(Galanthamine)症状は、皮膚炎、下痢、嘔吐、腹痛、痙攣、神経麻痺など。

シカ達は、これらの症状を覚悟で食べなければならないほど、食料が枯渇、不足しているというのが現状です。温暖化でシカの子供の越冬がしやすく生存率が著しく伸びたと云われており、シカの個体数はますます上昇しています。

 

京都大学芦生研究林の報告

京都大学芦生研究林の教授の発表では森の下層植物の減少が蜂や蝶など花粉や蜜を集める昆虫の減少を招いており、これらの昆虫の減少は農業や果実園、養蜂などにも多大な影響があると報告しています。また低層植物の減少で背の高い木を餌にするガの割合が増え、生態系の変化が顕著になってきました。

シカ害の深刻な背景として、@天敵の不在 A積雪の減少 Bスギ、ヒノキなど人工林の増加 C狩猟の減少 など四つの要因がある。現在の鹿の個体数を早急に半減する必要があるとの報告です。しかし、害獣駆除時における人身事故の多発や猟師の高齢化などで、害獣駆除活動が困難な状況になっています。

 

防護柵で囲むと植生は復活するが・・・・・・。

竈ケ谷では、ヤマブキソウをシカの食害から守る為に防護柵を設けていますが、柵の内部には、これまで見ることのなかった野草が繁殖、復活しています。クサアジサイ、ヤマボクチ、オトコエシ、モミジガサ などが見られるようになりました。

京都北山などでも、スギやヒノキの植林地全体を防護柵などで囲っていますが、そういう場所では植生が復活しているのを見かけることがあります。反面、防護柵の外ではダンドウボロギク、ベニバナボロギクなどの大量繁殖が見られます。

防護柵は小集落全体を囲んでいる場合があり、登山などでそんな場所に遭遇すると、自分が動物になったような不愉快な気持ちになります。

まさか、日本の森林全体を防護柵で囲むことは物理的にも道義的にも無理があります。

 

急がれる野生動物やアライグマなどによる野草や樹木の食害防止

シカ、イノシシ、アライグマ等の食害は、森林伐採やカシノナガキクイムシ被害区域拡大で、ミズナラ、コナラ、シイなどの高樹齢樹木の立ち枯れで、動物達の貴重な食材であるドングリなどの木の実の減少が主な原因です。カシノナガキクイムシはアンブロシア菌と総称される共生菌を培養して摂食しているが、この菌が繁殖することで、辺材部で通水機能が低下し、樹木が枯死します。ミズナラ、コナラ、シイの立ち枯れによる、著しい減少を食い止める事も急務ですが、国や自治体が、職業猟師の育成を積極的に行い、山里生活者や山林作業者、登山者やハイカーなどの安全対策を考慮し、誤射やトラブルの無い害獣駆除活動を行う必要があると思います。職業猟師の育成や確立などは雇用対策の一環となるものと考えます。

これまで、何万頭と処理された鹿はほとんどが利用されず、土中に埋められています。シカ肉などの美味しい調理法や、シカ肉流通システムの構築も今後重要になると思います。地域によってはシカ肉が学校給食に取り入れられています。また京丹後市では作物被害防止のため地元猟友会に委託して年間約2千頭、京都府全体では、年間1万頭の野生シカを駆除してますが、駆除による農産物被害の減少は確認出来ていません。シカの個体数が異常に多いという事です。

 

シカなどの野生動物の食害で起こる低層植物の消滅は、植生の変化に止まらず、近年、日本各地でゲリラ豪雨や集中豪雨による土石流や深層崩壊を引き起こしています。また人為的、地球温暖化などの影響で起こる森林破壊が、パキスタンや中国北西部などでも見られるような大規模な土石流や深層崩壊の元凶となっているようです。

シカなどの野生動物の食害対策は、日本の産業用水、飲料水の確保や、林業や農業、あらゆる産業に大きく関わる事柄であります。下記に述べるような、多面的な方法で、全国的に官民一体で早急に取り組まなければならない重要事項であると考えます。

@    職業猟師の養成と確立。シカなど害獣個体数の半減化をはかる

A    森林管理局(旧営林署)の増員と害獣対策の一体化

B    森林破壊、崩落箇所の予防と早期回復

C    野生動物の食料となる樹木の植林や保護

D    ナラ枯れ樹木の速やかな撤去と拡散防止対策強化

E    官有地、民有地の放置樹林、植林地の整備と有効活用

F    全国的な植生調査を行い過去のデーターとの対比

G    休耕田などの有効活用で広葉樹や野生動物好植物などの繁殖をはかる

 

 

上記の文章は、当会の佐々木さんや西京区大原野在住で 森の案内人 藤井肇氏の助言などを参考に作製しました。