黒法師岳 2066.4m

 

2005年5月2日〜4日    山行者  6人

 

 南アルプスの最南端にある山で連続する峰がなく、中々行く機会がなくて永い間の憧れの山であった。石屋が間違えて作ってしまったといわれている希少価値のX字型変種一等三角点標石が埋められている有名な山である。前衛の前黒法師岳ではウダイカンバの巨木が林立する原始の森に出会いたいし、又夏は途中に水が得られないので残雪のあるこの時期にと寸又峡温泉からので往復で計画を立てて見る。

【5月2日】

 前夜は大雨の降る中を静岡郊外で泊まり、寸又峡温泉には朝の7時頃に到着する。ここは20年前に光岳に登るために訪れているが、道路が良くなった為か観光地化してしまった感じである。朝が早いせいか幾つかある有料駐車場はどこも空いていたが、一番奥にあるミヤゲ物店の広い駐車場を利用させて貰う。残雪は無く水場も無く道も不明瞭だとの話なので、とりあえず各自水2Lを担ぎ上げる事にした。

 遊歩道を通り飛竜橋を渡り登山口に着くと、早速名物の山ヒルが踊り上がっていた。石灰と塩で身武装をして登りに掛かる。今朝は晴れてはいるが雨上がりの為非常に湿度が高くて蒸し暑い。植林地の中の急坂を一歩登る毎に汗が噴出してくる。真新しいタオルがまたたく間に濡れタオルになった。途中にある湯山集落跡は沢山の石垣の残る住居跡であったが、ヒルに追い立てられるように腰を下ろす事も出来ず、急いで通り抜ける。

 明るい林道に辿りついてからやっと一息入れる。飯場小屋の中で身をあらためてから四方の景色を見渡す。朝日岳が寸又川をはさんで大きい。若い苗木の植林がされている栗ノ木段も見晴らしの良い所。登りを続けイワカガミの群生地に着く。まだ花は咲いていなかったが、モヤが広がる暗い樹林帯のでは淡いピンク色のアカヤシオの花が満開に咲いていて彩りを添えていた。

 2人パーティが下ってくる。上の様子を尋ねる。山頂には残雪がある事と、ヘリポート広場から10分ほどの所に流れている水場がある事などを教えて貰う。水が確保できる事によって、ゆっくりの山行になった事に一先ず安心する。

 急な登りをあえぎながら登り着いた所が前黒法師岳の山頂であった。山頂は狭く西側方面が伐採されていて見晴らしが得られる。今日はここまでの予定としてテント場を探す。この山はほとんどが日帰りで往復している様子でテント場はなかった。少し下がった所で腐った倒木を整理すると、テント一張分の場所が得られた。深々とした落ち葉のベッドが出来上がった。まだ陽は高いがゆっくりと茶などを飲みながら過ごす。深い樹林に囲まれた山の中での夜が迎えられそうでいいテント場である。

【5月3日】

 空身で出発する。前黒法師岳を下って行くと、目当てのウダイカンバの巨木が見られた。老木に近いのであろうか樹肌ははがれ、見上げても枝の先端が見つからないほどの高木である。赤い木肌のヒメシャラも巨木となって点々と続いていた。

 モヤが広がり見通しが悪くなる。林道に下りて来ても道が見通せないほどの濃いガスが広がっている。広場の真ん中にHの印があり、ヘリポートであった事が分かる。天然ヒノキの搬出に使っていたと言い、もうこの山にはヒノキは無くなり役に立たないウダイカンバやブナだけしか残っていないため、この道路の役目も終わった事なのであろう荒れている。教えられた通りに水場を探す。道路には鹿の骨や頭や角などが断片となり、いたる所に散らばっていた。目印の消火器のある所から谷に少し下ると、細い水の流れがあった。恐らく夏場までには無くなるであろう細いものである。

 この林道は尾根を横断してから巻きながら続いているが、崩れて砂に埋まりもはや道路としての姿ではなかった。ここから黒法師岳への登りが始まる。ササが多くなり道が不明瞭になる。時折赤布などの目印を付けながら山頂を目指すが、まとわり付いている濃いガスは晴れず、依然として見晴らしは得られなかった。

 山頂直下のコルでは水場の標識があったが、水が得られるような場所には思われなかった。最後の登りは深いササに覆われた急な斜面の広々とした尾根でもあり、ルートの取り方に苦労しながらも、ササに掴まりながら高度を稼いで行く。

 黒法師岳の山頂は広々としていた。ササに覆われ残雪が少し見られた。丸盆岳までのピストンを予定していたが、ガスは依然として晴れないためあきらめる。熱いコーヒーを沸かししばしの憩いを取る。名物のX印の三角点はササに隠れながらもひっそりとあった。何回も写真で見た通りの角の欠けた見栄えの悪い三角点であった。標高差1400mの急登の末にたどり着いた憧れの山頂は、奥深い森林の中の山で感慨が深い。

 引き返してから前黒法師岳の山頂で2日目の夜を迎える。

【5月4日】

 朝から快晴の日である。寸又峡に向けて一気に下って行く。前黒までの日帰りの登山者が幾組か登って来ているのに出会う。温泉地は観光客で溢れていた。幾つもある小さな駐車場も車が満杯で、まだ続々と入って来ている。町営の露天風呂に入り、3日間の汗を流してから帰路に向う。

 

5/2 寸又峡(7:50)−前黒法師岳(14:00)

5/3 (5:25)−黒法師岳(10:00)−前黒法師岳(14:10)

5/4 (5:45)−寸又登山口(8:40)−寸又峡(9:40)