シカの食害その後
2011年8月4日 三鍋敏郎
シカと日本の森林 依光良三 編より
四国剣山山系で深刻化するシカの食害。シカの増加の要因として、地域によって、多少異なる場合があるが、@メスジカの保護政策、A高度成長期の奥地林伐採と拡大造林、B地球の温暖化と豪雪の減少、C中山間地域の衰退と耕作放棄地の増加、D猟師の減少、E林道など法面緑化や荒廃地緑化、F天敵であるオオカミの絶滅。
特に四国山地のシカの増加の最大の要因は山村(林業)の崩壊。基幹産業であった林業は、円高、グローバル化のもと外材攻撃にさらされ、木材価格の著しい低落によって成り立たなくなったこと。昔は集落の住民たちが集団で狩りをして野生動物を貴重な蛋白源としていた。営林署の伐採拠点があり、奥地林開発にあたっていたが、作業員も銃を持つ者が多く、趣味と実益を兼ねて狩りが盛んに行われていた。結果、この地域からはシカは姿を消し、ツキノワグマも絶滅寸前に至り、人がオオカミ以上の「捕食者」となっていた。しかし、森林と山村が衰退すると多くの小集落が無住地区となり、耕作放棄地が増えやがて植林や潅木に飲み込まれ、着実に森林還りが進む。「森林管理の無政府状態」が進む。その一方で「シカ王国」が築かれてきた。
樹種別の剥皮被害の傾向-----被害のひどい木と受けない木では、アサガラ、ミズキ、コバノトネリコ、ノリウツギ、ウラジロモミの順で被害が大きく、ブナやイヌシデ、イタヤカエデはまったく被害を受けていない。ケヤキやダケカンバも被害はほとんどなかった。(ただし、ダケカンバは石立山や白髪山西稜線側では被害が著しい。シカの集団により食性が変化し一律ではない)樹皮剥ぎ被害は一つの樹木の生死に大きな影響を与えるだけでなく、それらが構成している樹林全体に大きな影響がある。被害が進行すると下層植生や樹林そのものの消失、野生動物の生息場所の減少や消失、あるいは表土の流失が発生しそれが山腹崩壊へと発展する危惧がある。国土保全の観点からも問題がある。
登山時報
登山時報8月号では「空から見た南アルプスの現状」(天空のお花畑が消える!!)という特集が6ページに亘り、南アルプス上空からのカラー写真などで被害の状況の詳細が載っている。標高2500m付近の草原はマルバダケブキの黄色とトリカブトの青紫が出迎える。以前のお花畑の姿を知らない人は「きれいだ」と言って喜んでいる。一方、聖平は南アルプス唯一のニッコウキスゲの大群落があったが、2000年には1本の開花もなかった。塩見岳でもシナノキンバイやハクサンイチゲの咲く草原が、現在は岩礫がむき出しになっている。日本ジカは群れで行動し木の葉より草本を主として菜食する。雪解けとともに高山帯に侵入。お花畑に無数に伸びる鹿道の様子。食害で剥き出しとなった斜面の写真。目を塞ぎたくなるような高山帯のお花畑の惨状が視覚的に良く理解できる。
ポンポン山のキツネノカミソリ
先日、久しぶりにポンポン山の竈谷を訪れた。8月といえば、オオキツネノカミソリの開花時期である。何時もの群生地辺りに到着してびっくり。開花したばかりの花穂が根元から齧られて地面から数センチ残るのみである。ことごとく齧られて哀れな茎の残骸が地表に歯抜けの歯ブラシのように無数に残っている。開花しているオオキツネノカミソリもあるがパラパラといった感じで、45年前に見た、見渡す限りオレンジ色の花が逆光線に輝くばかりだった印象が、あっけなく夢砕かれてしまった。
何箇所かの群生地も同じように花穂が齧られて無残な状況である。このままでは数年で絶滅の危機を迎える事になるだろう。